今回は母を連れての二人旅。5日間という短期間ながら、フィンランドでは北欧神話の世界さながらの森と湖へピクニック。私の最も好きな街三本の指に入るエストニアのタリンでは、中世そのままの街並みをたっぷり堪能。【旅行時期:5月初旬】
5日間という日数は、弾丸でヨーロッパに行って一都市に滞在し、過不足なく帰って来られるギリギリの期間であると私は思っている。
中でも、フィンランドは日本から飛行時間10時間を切り最短で行くことのできるヨーロッパの国である。
今回同行者に母を選んだのは、母は歳の割に価値観が柔軟でフットワークが非常に軽いからということもある。
しかし本当のところは、妹と弟がいる私にとって、母と二人だけの旅行というものに少なからず憧れのようなものがあったからかもしれない。
ヘルシンキ、ヴァンター空港へはFINNAIRで直行である。
到着ホールには特に何があるわけでもないが、木目調のフロアにどことなく明るく垢抜けた感じが北欧らしい。
5月はまだオンシーズンではないためか、人が極端に少なかった。
ホールを出るとすぐにFINNAIRの運行するバスが市内へ出ている。
ヘルシンキ中央駅まで約30分。
一人旅ではアパートを借りることが多い私だが、今回は同行者がいるので”個人旅行の宿はまず立地を優先すべき”との持論に加え、ホテルにはそれなりの気を遣った。
Hotel Kämp, Helsinki | Official website | Best Rates Guaranteed
ヘルシンキ中央駅から徒歩5分程度、ブランドショップが軒を連ねるエスプラナーディー通りにある申し分のない立地と快適さでなかなか優秀なホテルである。
ヘルシンキが最も近いヨーロッパだと感じるのは、日中に現地に着くことができる便のせいもあるだろう。
ホテルへ荷物を置いた後もまだまだ日は高い。
春先のヘルシンキは、目抜き通り沿いにそろそろオープンカフェも出始める頃。
街には日本人こそ見かけないが、長い冬を終えた北国の人々がこれからやってくる眩しい夏に向けて胸を躍らせる時期でもある。
ヘルシンキの街に繰り出してみると、その街並みからはイタリアやフランスなどとはまた一味違った印象を受ける。
ロシア統治時代の名残か、軽やかというよりは暗くどっしりとした鉄筋の建物が多く社会主義時代の産物のようで、ふと仕事で行ったモスクワやサンクトペテルブルクの街並みを思い出した。
さて、フィンランドへ来てまず体験してみたかったことがある。
サウナである。
そう、フィンランドは云わずと知れた”サウナ”発祥の国なのだ。
ヘルシンキの街中も例外ではなく、住宅街の真ん中に日本の銭湯よろしく地元民が足繁く通うサウナが点在していたりするのである。
そんな街中のサウナへ行き、地元民に混じって裸の付き合いをしてみしょうじゃないか。
これがフィンランド旅の目的の一つでもあった。
考えてみれば、60近い年齢の母は旅先でのこういったユニークな体験にたいした抵抗も無く、むしろ何でも一緒に楽しんでみようという積極性があるのだから、やはり私を産んだだけのことはある。
その小ぶりなサウナは、メトロの駅ソルナイネンから大通り沿いをしばらく歩いた住宅街の中に、埋もれるようにしてあった。
ヘルシンキでは今時珍しい、昔ながらの薪を使うタイプのサウナだという。
Kotiharjun Sauna - Kotiharjun Sauna Perinteiset puulämmitteiset miesten- ja naistensaunat
北欧のサウナと聞いてイメージする、開放的なログハウスのようなサウナとはかけ離れた、間口の狭い年季の入った銭湯のような外観だ。
しかし、そのあまりのさり気無さがかえって穴場的な雰囲気を醸し出している。
思い切ってドアを開ける。
するとすぐ目の前に番頭さんらしきお兄さんが立って、私たちを見るなり申し訳無さそうに言った。
「すまないねえ。今女性用サウナは改装中で入れないんだ。」
ショックである。
楽しみにしていた旅の目的が何らかの理由で達成できないことは往々にしてあるけれど、一度で諦めること勿れ、である。
お兄さんに、この辺に同じようなサウナは無いかと尋ねた。
すると、そこから数ブロック先を左に曲がったところに一つ、地元民がよく使うサウナがあるとのこと。
男性用サウナを利用したおじちゃん達は、惜しげもなく立派な身体を傍目に晒し涼んでいる。
せめてもの思い出に、と陽気なおじちゃんたちと記念撮影をし早速別のサウナへ向かうことにした。
外観からはそこにサウナがあるなどと全く見当もつかないが、その鉄製の扉には確かにSAUNAと書いてある。
先ほどのサウナはガイドブックなどにも載っているが、このサウナは正真正銘、地元民こそが知る穴場である。
Sauna Arla Bastu - Arlan Sauna
人気も無いが、果たしてこの奥に本当にサウナなどがあるのだろうか。
何となく秘密の扉を開けるような気分で、母と二人でその重い扉をギーと開いた。
扉の先は両壁に不思議な絵が描かれた通路になっており、そこを進むと静かな中庭に出た。
ヨーロッパの街によくある、建物に囲まれたパティオ形式の庭で、サウナに使っているのであろう薪が積み上げてあった。
その一角にサウナへの入口はあった。
扉を開けると、静かな仄暗い空間である。
奥に腰を下ろしていた番頭のおじさんが立ちあがって私たちを迎えた。
料金を支払うと、タオルとロッカーキーを渡され、部屋へ案内された。
ここのオーナーはクラシックなフィンランドサウナそのままに、ここを維持しているのだとか。
中途半端な時間からか、他に客はおらず貸切状態である。
静かな脱衣所は日本の銭湯のように体重計やら鏡や洗面台などが置いてあり、少し古びたレトロな様子がどことなく懐かしい。
脱衣所の先には扉があり、中は身体を洗うシャワー室になっている。
まずはここで身体を清め、いよいよその先のサウナ室へと向かう。
重い鉄の扉を押し開けると、そこは仄暗く、絶妙に湿度の保たれたリラックス空間であった。
かなり年季が入っていると思われるサウナストーブには、焼けたサウナストーンがパチパチと音を立てている。
サウナ特有の木の香りと石の焼ける匂いとが合わさって 、静かな個室内を満たしている。
やはり古典的なタイプの本場のサウナは、熱の伝わり方も柔らかい。
そこにある桶で水を汲みサウナストーンにかけると忽ち蒸気が上がり、絶妙な湿度と温度が保たれる。
写真で撮ると、石造りの床や木製の手すりは塗装も剥げかなり古びているように見えるが、実際は隅々まできちんと掃除が行き届いていて不潔さや汚さは微塵も感じさせない。
ひとしきり本場のサウナを楽しんだ後、満足してサウナを後にした。
最後の方には地元民も入ってきた。
サウナで体力を使ったのか、どっとお腹が空いてきた。
夕食は、シーフードが美味しいと評判の店を予約してあった。
Etusivu | Ravintola Fishmarket
ホテルからも徒歩数分、大聖堂近くの分かり易い立地である。
北欧らしい白と木目の色調が心地よい店内。
シーフードプラッターが有名だったが、私たちはシーフードの3コースデザート付を食べた。
どれも美味しかった。
しかし、とにかく眠い。
時差ボケもあり、日中に着いたものだから歩き回ったおかげで眠気はMaxに達していた。
日が暮れるのが遅いからか、暗くなった頃にはけっこう遅い時間になっていた。
明日に備え、ホテルに戻るとすぐに眠りに就いた。