以前働いていた会社のツアーに両親が参加してきました。添乗をしたことのあるツアーとほぼ同日程なので今回は2人が旅したチェコ、スロバキア、ハンガリーの旅行記を代筆します。【旅行時期:10月初旬】
朝早くスロバキアのブラチスラヴァを発ったバスは西へ西へと走り、国境を越えた。
後半に訪れる国は、ヨーロッパのほぼ中央に位置するチェコだ。
多様な建築、今なお残る古城、息を呑む景観・・・チェコという国にはあらゆるエッセンスが凝縮されている。
チェコ東部モラヴィア地方の田園風景を眺めながら、バスはトシェビーチの街へ辿り着いた。
まず向かったのは、その独特の外観から世界遺産に登録されている聖プロコピウス聖堂。
聖堂の遠景は、なんだか2つの異質な建物をくっつけたかのように見える。
それもそのはず、ひとつの建物で建築様式が違うのだ。
ずんぐりどっしりとした重厚な石造り、半円アーチが特徴のロマネスク様式、そしてスッキリと高さを出すことに拘ったゴシック様式がミックスされている。
また分かりやすくまとめるが、特にヨーロッパを観光する時に建築様式についての知識は必須である。
といっても難しいものではない、誰でも分かる簡単な見分け方があり、それを頭に入れておくだけで、面白いように教会建築が分かるようになる。
中へ入ってみよう。
内部の天井を見上げてみる。
教会の天井は、注意してみるとそれぞれに特徴がある。
高さに拘るゴシック様式は、少しでも天井を高く見せようと床から天井までを一本の飾り柱で繋げ、各柱は一点で交差する。
そうすることで目線を縦方向に注目させることができるのだ。
重厚感を演出したいロマネスク様式は、厚くどっしりした石の壁に窓を最小限度に留めるのが特徴だ。
小さな窓からはほんの少しの光だけが差し込み、暗く重い空間を演出する。
さて、次はヨーロッパ最大規模のユダヤ人地区が保存されている区域へ足を踏み入れてみよう。
トシェビーチのユダヤ人地区は、キリスト教とユダヤ教が実に500年もの間共存してきたという、世界でも珍しい場所として世界遺産に登録されている。
歴史の中で常に対立してきたユダヤとキリスト。
ユダヤに迫害されてきたキリストは、今度は迫害する側になった訳だけれど、そんな時代にキリスト教徒がユダヤ教徒を受け入れ絶妙なバランスで共存してきた街は世界でも類を見ない。
商売に秀でたユダヤ教徒はその才を活かしトシェビーチの街を繁栄させたという。
入り組んだ路地や煉瓦造りの家屋に、ユダヤ人地区の往時の様子が窺い知れる。
ユダヤの教会のことをシナゴーグという。トシェビーチでは、その一つを見学することができる。
ところで、世界で活躍しているユダヤ人の多さは周知の事実、ノーベル賞受賞者にもユダヤ人は多い。古来から高い職字率を維持してる。
よくユダヤ人は頭が良いと言われているけれど、それはユダヤ教の宗教生活に端を発しているという見方がある。
確かにユダヤ教では、聖典トーラーと口伝法典タルムードの学習を戒律として厳しく定めていて、幼い頃から読み書きを習ってこれらの法典たちを徹底的に読み解き暗記。同時に論理的思考を徹底的に叩き込む。
他宗からユダヤ教に改宗する場合もかなり大変だ。
数年間ラビのもとでヘブライ語、聖書、歴史、戒律を学習した後、法廷の実施する筆記試験、口頭面接に合格しなければならない。
こういった徹底して教育を重視する宗教生活が、ユダヤ人たちの各界での活躍に繋がっているというのは頷ける話だなと思う。
現代の若者などは、これほど厳密な宗教生活を送っているとは言わないが、それでもユダヤ教の精神である、物事を鵜呑みにせず多面的に見る、現状に満足せず自らの頭で徹底的に考え論理展開する、という習慣は遺伝子レベルで受け継がれているのだろうと思う。
トシェビーチを出ると、テルチの街まではそう時間がかからない。
30分もあれば歩いて回れるほどの小さな可愛らしい街がテルチだ。
「モラヴィアの真珠」と言われる所以は、広場に面してギッシリと並ぶカラフルな建物にある。
中でも注目すべきは以下2つの建物に施された装飾。
スグラフィット技法という、チェコによくある装飾方法で、色付けした漆喰を塗ってそのあと石灰を塗り、それをはがしていくことで模様を作る。
ただ塗り重ねているのではなく、遠くから見ると凹凸に見えたり、だまし絵のように見えたりする一風変わった装飾なのだ。
よく考えたら、こういう装飾方法は日本には無い。
一見絵のように見えるが、かなりの手間をかけて装飾してるのだな、などと考えながら見ると面白い。
広場から出てすぐのところに湖がある。
これぞチェコの長閑な田舎の風景だ、といえる静かで美しい景色に出逢える穴場だ。
テルチを後にしたバスは、チェコ西部ボヘミアの美しい森へとやってきた。
そして、いよいよ本日かららの連泊地、私の最も好きな街の一つであるチェスキー・クルムロフへ着く。
この街へ初めてやって来た時、ここは本当にお伽話の中なんじゃないだろうかと錯覚した記憶がある。
旧市街にある小さなホテルにチェックインすると、じきに森に抱かれた静かな夜がやってきた。
明日からは、この街の魅力をたっぷりと堪能する。