三泊四日、民主化デモ真っ只中の香港・マカオへの旅。ネオン輝く繁華街や金色の水上レストランなどギラギラした部分だけでなく、今にも崩れそうな雑居ビルに侵入するなど、煌びやかな香港のもう一つの顔にも迫ります。マカオでは沢木耕太郎の「深夜特急」にも描かれた場所を訪問。今回は同行者ありの旅。【旅行時期:9月末】
朝9時台。
まるで異空間のようだった雑居ビルでのプチ冒険から、ホテルへ戻ってきた。
未だ寝ていた同行者を起こして朝食を食べてから、これからは定番香港観光へと繰り出す。
まずは人気観光スポットのひとつ、ヴィクトリアピークへ。
コンラッドホテルからは、裏手にある公園を通って15分程度歩けばすぐにピークトラムの駅へ行くことができる。
けっこうな急勾配、よく見るとかなり年季の入ったレールをガタピシいいながら登っていく様子がなんだか心許ない。
トラムが着いたところにはいくつか建物があるが、ピークタワーに入っている蝋人形館マダムタッソーで定番写真撮影を楽しむ。
マダムタッソーの蝋人形はなかなか精巧にできているので、けっこう純粋に楽しめる。
憧れの台湾女優、チーリンさんと。これは実物の方がだいぶ美しい・・。
ヘップバーンさんは安定の美しさ。
ご満悦。
ピークタワーには有料の展望台があるが、少し歩いたところにある無料展望台、獅子亭からの眺めでも十分である。
ヴィクトリアハーバーを臨む。やはり香港の高層ビルの景観は他と一線を画している。まるで鉛筆を突き刺したかのようだ。
ランチは、当初は尖沙咀にある四川風麻婆豆腐や辛みの効いた海鮮炒飯が絶品だと言われる満江紅に行きたかったのだが、時間の関係でピークタワー内のBUBBAGUMPで海老料理を食べた。
満江紅 (マンジャンホン) 香港・尖沙咀 : 麻婆豆腐食べ歩き「全マ連」
ピークトラムの駅からは、中環(セントラル)まで散歩がてら歩いてもすぐの距離だ。
それに、どちらにしてもこのセンターエリアはデモの影響で全面通行止めだ。
しかし、このオフィス街で、平日だというのに異様な光景だ。
この状況は日本では有りえない。
道路には学生たちが屯している。
香港ではとにかく、学生たちのエネルギーに圧倒された。
今回のデモでは民主政党の中心人物などのベテランメンバーを中心とする「オキュパイ・セントラル」よりも、学生を中心とする「スカラリズム」の勢いの方が目立っている。
年配層に比べて、若年層は中国による経済的恩恵を受けていないということもある。
これからここで成人し生きていく彼らたちにとって、香港の将来は他人事ではない。
道端で息巻く学生たちの団体にそっとエールを送りながら、その場をあとにした。
香港に来たらやはり定番アフタヌーンティーには行っておきたい。
中環にあるマンダリンオリエンタル香港、クリッパーラウンジはローズペタルジャムが有名だ。
さほど広いわけでは無いが、落ち着いた色調のロビーには格式が感じられる。
予約が不可なのだが、幸か不幸かデモのお陰で普段は行列のできるアフタヌーンティーにもすんなり入れた。
【ELLE】「マンダリン オリエンタル 香港」が50周年! 極上ステイを体感するチャンス|エル・オンライン
いったんホテルへ戻って小休憩し、ディナーを予約してあった水上レストランへ向かう。
実は、今日のハイライトはこのレストランだと言っても良い。
「珍寶王國(ジャンボ・キングダム)」は、香港仔(アバティーン)にある水上レストラン。
ここは香港観光では有名なレストランなのだが、一度何かの記事でたまたまこのレストランの写真を見て以来、ずっと気になっていたのだ。
香港仔の深湾という港に浮かぶ、眩いばかりに輝くレストラン。
それは印象的な写真だった。
水上に浮かぶ、やたらと派手派手しいレストランの絢爛豪華な姿と、水面で揺らめく金色の光。
一歩間違えば悪趣味ともとれなくないその姿が、香港のイメージに妙にぴったりだったのだ。
幸い、通行止め区間外だったためタクシーで行くことができた。
ここへは公共交通機関よりもタクシーが便利だ。
金鐘付近からは30分程度でレストランへの渡し船が出ている深湾埠頭へ着く。
タクシーを降りると、辺りには特に何があるわけでもなく意外なほど静かな夜の埠頭である。
埠頭の向こう岸にはマンションのビルが聳えているだけだ。
静かな波の音と、磯の香り。
しかし、穏やかな夜の港に突然現れる、どこから見ても目立つ桟橋。そこだけ切り取られたかのように不思議に光るネオンは、まるでこの世のものではない、龍宮城への誘いのようだ。
珍寶王國との間は桟橋から渡し船で往復する。
シーズンオフだからか、待っていた客はあと一組だけだった。
派手な灯りのついた小舟は私たちを乗せるとゆっくりと桟橋を離れた。
目の前には、現実離れしたあの珍寶王國の姿が怪しげな光を放っている。
先ほどの不思議な桟橋から小舟で海を渡る間に、なんとなく現実世界から遠ざかっていく感覚になる。
近づくにつれ輝きを増す怪しい珍寶王國は、夢と現の境目に私たちを誘っているかのようだ。
船が着くと、金の龍に派手な装飾、すぐそこはエントランスである。
珍寶王國にはいくつかのレストランが入っている。一階には個室らしき部屋、正面階段を上がって二階には龍軒という超高級レストランが、そしてその上の階が私たちの予約したレストランだ。
内部は思いの外居心地が良く、通常の高級中華店と変わりない。
広い店内はテーブルも大きく、メニューも充実している。
実は、ここは一度に数百人規模で団体が入ることができるためツアー客の利用も多く、その類稀な外観から有名な観光スポットの一つでもある。
したがって、かつては団体ツアー慣れしたレストランにありがちな、髙いだけで不味い料理を出す店のうちの一つであった。
少し前に投稿されたレビューなどを見ると、ここの料理の評判は最悪だ。
しかし、数年前のリニューアルに伴い総料理長が変わったため、料理が劇的に美味しくなった。
値段はそこそこするのだが、味はどれも間違いなかった。
さて、満腹になったところでまた渡し船で龍宮城から現実世界へ戻る。
ふり返ると、やはりそこだけが別世界のように虹色の光に包まれていた。
ホテルに戻った時には21時をまわっていただろうか。
同行者を部屋に送り届けてから、私はひとり夜の街へと出かけることにした。
目をつけていたバーSEVVA。
中環という、香港きっての金融ビジネス街ど真ん中にあるこのバーは、ヴィクトリアピークやハーバー沿いの夜景とはまた一味違った夜の風景が楽しめる。
客層は中環のビジネス街で働く欧米系のビジネスパーソンがほとんどで、ドレスコード有りのバーである。
食事となると値段も結構なもので予約必須であるが、テラスで一杯飲むくらいならば予約も必要ない。
夜のテラスバーに出ると、ビルの合間をぬって吹く風が心地よい。
サングリアを一杯頼んで中環の夜景を見下ろす。
国際金融ハブ都市である香港、そのまさに心臓部がここ中環である。
しかし、眼下に目をやると、驚くべき光景が広がっていた。
蟻のように黒い点となって中環に押し寄せる人の波。
デモは夜の帳が降りてからも終わらない。
このまま中国政府の思惑通りに事が進めば、香港は旨味を吸い取られた後、おそらくアジア一の金融ハブの地位も上海にとって替わられるだろう。
いつまでも絶えない黒い点を眺めていると、まるで香港という都市の断末魔の叫びを聞いているかのようだった。
明日はいよいよ帰国である。