今回の旅のテーマは珠玉の田舎町めぐり。フランスはトゥールーズへ入り、南西部の最も美しい村に登録される村々を巡ります。後半はマドリードへ飛んでスペイン、アンダルシア地方の田舎町で馬に乗り野山を駆けます。【旅行時期:11月中旬】
さて、最終日は朝イチでスペインの有名チョコレートショップCACAO SANPAKAマドリード本店へ。
キャラメルマキアートやアールグレイ、カプチーノ等、ここはお洒落で色々な種類のチョコレートが売っているので、お土産にはうってつけだ。
少し肌寒いマドリードの街角。スタバのコーヒー片手に足早に通勤するビジネスマンたちも都会的で絵になる。
お土産のチョコレートを調達し、デパートの地下食料品売り場を最後に物色し、いったん部屋に戻る。
最終日は午後便だと余裕があって良い。
パッキングをしてチェックアウトをしてもまだ時間がある。
荷物を預けると、再び街に繰り出した。軽く食事をとっておこう。
マドリードで食べておきたい料理がまだ残っていた。
マッシュルームの鉄板焼き、「チャンピ二オン・ア・ラ・プランチャ」だ。
シイタケのような肉厚でぷりぷりした特大マッシュルームの傘に挽肉などを詰めて、にんにくとオリーブオイルで焼く。
肉汁と相まってジューシーかつ歯ごたえのある逸品、だそうだ。
昨日行ったサンミゲル市場の近くの小路には様々なバルが軒を連ねている。
しかし時刻はまだ12時前。日本ではレストランは開いているが、スペインではこの時間まだ朝食を食べている人もいるくらいでランチできるレストランは開いておらず、いくつか開いているバルにもチャンピニオンの文字は見当たらない。
手っ取り早くサンミゲル市場のフードコートで食べようと思うが、チャンピニオンはなぜか見つからない。
諦めるしかないか。
チャンピ二オンを求め歩き回るのも疲れてきたその時、あるバルが目についた。
タコのモチーフが看板になっている店。「タコのガリシア風」が売りのようだ。
タコのガリシア風は、北西スペイン、ガリシア地方の名物で、タコをものすごく柔らかくゆでてオリーブオイルと塩コショウ、パプリカで味付けしたシンプルな料理なのだが、以前北スペインを旅した添乗員の友人がこの料理に魅せられてしまったと言っていたのを思い出した。
気になって中を覗くと、なんとチャンピにオンもメニューに並んでいるのを発見した。
これは一石二鳥だ。
タコとマッシュルームで今日のランチは決まり!
バルに入ると中途半端な時間だからか、客は私と常連らしきおじさんが一人だけだった。
カウンターに座り改めてメニューを眺めていると大盛りの小エビ、そしてポテトチップスが山盛りになって出てきた。
どうやらお通しのようだが、結構なボリュームである。
予定通りタコとマッシュルームを頼むと、早速エビにとりかかった。
生の甘海老のようだ。頭をとったり殻を採ったりするのに思いの外てこずる。
ポテトも何となく食べているうちに結構お腹が膨れてきてしまった。
そこでまずタコの登場だ。
むむ!!想像以上に多い!タパスは小皿という意味なので文字通り小皿で出てくるのかと思いきや、けっこうな大きさの皿に惜しげもなくタコのスライスが折り重なっているのだ。
一口食べると、ものすごく柔らかい。塩コショウとパプリカというシンプルな味付けがタコの旨味を引き出しているのは確かだ。
しかし、これを全部食べると確実にマッシュルームは食べられない。
なんとか半分ほど食べ進んだところでマッシュルームの登場だ。
いやはや、こちらもなかなかの量。
そして、ちょっと想像と違う。大きくて肉厚のマッシュルームの傘にひき肉やらが詰めてあるものと思っていたのだが、これは細かく刻んで焼いてある。
味は確かに美味しいのだが、いかんせん量が多すぎる。
こちらも半分ほど食べ進んだところでギブアップとなった。
一人旅で悩みがあるとすれば、それはやはり食事の量なのではないだろうか。
タコとマッシュルームに苦戦している間にお客も少しずつ増え、カウンターは地元のおじさんたちで賑わいだした。
満腹になったところでいよいよスペインをあとにする。
マドリードの街は旅人を実にすんなりと受け入れ、そしてまた送り出す。
私はなぜこうも旅に惹かれるのだろうか。
意外なことに、社会人になるまではとりわけ海外旅行が好きだったとか、学生時代にバックパッカーをやったとかいうこともなかった。
やはり海外添乗の仕事が私の旅好きを開花させたとしか思えない。
添乗で行く海外というのは、たった一人で会社の責任を背負い20名超の見知らぬ人を連れて行くという点で、遊びで行く海外とは全くもって別物である。
時には具合の悪いお客様の世話をする看護婦に、時には場を盛り上げるエンターテイナーに、英語の通訳から貸切クルーズ船のガイドアナウンス、素麺作りまでもやる。
また、行き当たりばったりは許されず、相当の知識を蓄えてツアーに参加する人たち全員を満足させて帰ってこなければならない。
ツアーの出来、添乗員の質は全員から常に評価され、会社にアンケートとして提出されるため気を抜く暇はない。
こんなに苛酷では、旅がむしろ嫌いになってしまうのではないかと思う。
イギリスには「旅は利口な者をいっそう利口にし、愚か者をいっそう愚かにする」とう諺がある。
ただただ漫然と海外に行くのでは意味がないのだ。
添乗では、建築、音楽、美術、歴史、自然、冒険、休暇…と旅に様々なテーマがあり、ツアーを通してそれを追及することになる。
正直、テーマは何でも良い。
美しいものに触れ感性を磨くことであったり、美食を追求することであるかもしれない。
何かの視察や、ある特定の建築物や景色を見ることにターゲットを絞っても面白い。
今回のように田舎町で地元民と触れ合うことでも良い。異国でとことん非日常を味わうことだってテーマになり得る。
しかし、意識的にテーマを持つことによって、実は沢山のことを能動的に吸収することができる。知識であったり、異文化を肌で感じることであったり、言葉であったり、同行者との絆であったり・・。
テーマのある旅は、ただ行って帰ってくる旅の何倍も魅力的だ。
そういうことを私に気付かせてくれ、異国を旅するという行為に大いなる魅力を見出させてくれたのが添乗という仕事だったのだろうと思う。
また、18世紀フランスの批評家スタール夫人は「他国を見れば見るほど、私はいよいよ祖国を愛する」と語った。
まさにその通り、海外に何日か滞在すると、日本の素晴らしさをひしひしと感じることになる。
人は、異文化を知ることでますます自国への愛を確認するものなのではないだろうか。
旅は奥深い。一度その魅力を知ると、容易には抜け出せない。
私もそんな魅力に憑りつかれてしまった一人である。
(終)