元添乗員の国外逃亡旅行記

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チェコ・スロバキアの美都とハンガリーの大平原 ⑥ 後編 ~ホラショビツェ・フルボカ~

以前働いていた会社のツアーに両親が参加してきました。添乗をしたことのあるツアーとほぼ同日程なので今回は2人が旅したチェコスロバキアハンガリーの旅行記を代筆します。【旅行時期:10月初旬】

 

午後、チェスキークルムロフを発ったバスは北東に向けて走って行く。

 

辺りは少し色付いた木々と緑の絨毯が広がる豊かな農村地帯。ところどころに農家の家屋が建っているだけの、実に長閑な景色である。

 

こんなところに世界遺産なんてあるのだろうか。そう思った矢先、バスは細い坂道を上がったところにある開けた場所に停車した。

 

中央に緑地があり、その周囲をぐるりと農家が囲んでいる。バスを降りると爽やかな秋の風が頬を撫でた。

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ホラショビツェ村。16世紀にできたこの集落は、1998年、ユネスコ世界遺産に登録されている。歩いて15分もすれば全て見終わってしまうくらいの小さな集落の、どこにそんな要素があるのだろうか。

 

ここではぜひ農家の建築様式に注目して欲しい。一見、何の変哲も無いこれらの農家は、実は歴史的に価値のあるものなのである。

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現在あるホラショビツェの農家の建築様式は、「農村バロック」と呼ばれている。19世紀に入って、村の建物は次々にバロック様式に建て替えられた。

 

バロック様式とは、ポルトガル語で「歪んだ真珠」という意味の「バロッカ」という言葉からきている。本来はそのイメージ通り、やたらとデコラティブで装飾過多、螺旋や曲線を多用して何となくお腹がイッパイになってしまいそうな様式だ。

 

しかし、ホラショビツェの農村バロックは非常にスッキリしている。当時宮廷や教会、城の建築で大流行していた絢爛豪華なバロック様式を、農民たちは自分たちの生活にも合うよう改良したのだ。f:id:mamfuj:20150130103821j:plain

 

素朴な南ボヘミアの農村風景、それに流行のバロック様式を見事に調和させてできた一種独特の建築様式といえる。

 

 こういった素朴でプレーンなバロック様式というのはここでしか見られない。

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そして、村人はこの村を当時の状態のままほぼ完璧に守り続けてきた。この村の価値はそこにある。

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何の知識もないままここへ来ると、可愛らしい農村があるというだけだ。

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 まるで作り物のように見えるこの村は、しかし実際に生きている。

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100年以上の間、村の人々はこの小さな集落を守り続けてきた。世界遺産としてはあまりにひっそりと、そして地味なホラショビツェ。だからこそ、その裏に隠された村人たちの努力が感じられるのである。f:id:mamfuj:20150130103618j:plain

 

 

 

 

ホラショビツェを出ると、バスは更に北上しフルボカへと向かう。

 

小高い丘の麓にあるバス停で降りると、あとは徒歩で丘を上って行く。この辺りは魚の養殖が盛んな地帯で、見下ろすと食用鯉などの養殖池が点在しているのが分かる。

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坂道を上り切ると、そこには美しい緑に囲まれたうっとりするような白亜の城が建っている。

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ボヘミア一帯の有力貴族、シュヴァルツェンベルク家の居城であったフルボカ城。

 

シュヴァルツェンベルク家は昨日訪れたチェスキークルムロフ城も所有していた。カール・シュヴァルツェンベルク侯爵が対ナポレオン戦争で勝利を収めたことからヨーロッパ中にその名を広めた貴族である。

 

フルボカ城は、数ある城のなかでも私が最も好きな城である。

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よくみると、城の壁からは不気味な怪物が見下ろしている。f:id:mamfuj:20150130104926j:plain

 

城の重厚な扉は、カラスが人の頭を突いているおどろおどろしいモチーフだ。実はこれはシュヴァルツェンベルク家の紋章のモチーフ。強敵オスマントルコを倒したことを記念して、トルコ人の頭をつつくカラスの絵を紋章にしてしまったのだ。

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ヨーロッパの城は綺麗なだけではなく、少し謎めいていたり不気味な一面があった方が魅力的に映るような気がする。

 

城の門を開け、まず中庭へ入る。

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フルボカ城の気に入っているところは、壮大過ぎないというところだ。城内部への入口も、この比較的こじんまりした中庭にある普通の大きさの扉なのだ。

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しかし、一見こじんまりとした外観とは裏腹に、中は複雑に入り組み見学しているうちにどの辺りにいるのかが分からなくなる。そういったところも神秘的でワクワクする。

 

手の込んだ彫刻がなされた階段を二階に上がるところから見学がスタートする。

 

重い扉が閉まると、外界からは完全にシャットアウトされる。静寂に包まれた重厚な空間。まるで本当に貴族の館にお邪魔しに来たかのようだ。

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フルボカ城見学の好きな点は、城内に一度に入れる人数が制限されているため、極めて少人数で城の中を回ることができるという点だ。

 

部屋から部屋へと入るごとに、分厚い豪華な扉にはガチャリと鍵がかけられる。

 

どこもかしこも人ごみだらけの城の見学とは全く異なる、静かでプライベートな城の姿を垣間見ることができる。

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隠し扉や驚くほど豪華な装飾、重厚な造りの部屋、いくつもの秘密の小部屋やサロンが次々と現れ、まるで当時の館にこっそり忍び込んだかのようだ。

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イタリア製クリスタルのシャンデリア、ブリュッセル製のタペストリー、精巧な寄木細工の床、東洋の陶磁器コレクション・・・目を見張るようなお宝や驚くばかりの豪華な品々がふんだんに置かれた城内の様子は、チェコで最も華麗な城館といわる所以だ。

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(室内撮影禁止のため、パンフレットより)

 

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見学の最後は、瀟洒な温室を通って外へ出るようになっている。

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城の側面に回ってよく手入れされた庭園を見てまわるのも良い。

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何度訪れても魅力的なフルボカ城。帰り際に振り返ると、蒼空と木々に白亜の城が映えて、はっとするほど美しかった。

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フルボカ城の全貌は、以下のURLから見ることができる。


Indoor photograph - Oficiální stránky zámku Hluboká

 

今夜はまたチェスキークルムロフへ戻り、明日はいよいよプラハへ向けて発つ。

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