今回は母を連れての二人旅。5日間という短期間ながら、フィンランドでは北欧神話の世界さながらの森と湖へピクニック。私の最も好きな街三本の指に入るエストニアのタリンでは、中世そのままの街並みをたっぷり堪能。【旅行時期:5月初旬】
エストニアのタリンという街をご存知だろうか。
もし、時間が無いがヘルシンキを拠点としてフィンランドともう一か国行ってみたいと考えるならば、文句なしにエストニアのタリンをおススメする。
エストニアというとそれほどメジャーな国では無いけれど、実はヘルシンキからフェリー一本、片道3時間程度で行くことができる。
しかも、首都タリンにある旧市街はまるで幼い頃に読んだお伽話や絵本の世界そのもの。
中世の姿そのままに保存された街並みは一種独特の雰囲気で、どこをとっても驚くほど絵になる。
一度仕事で行ってから、いつかこの街をもう少しゆっくり見てみたいと思っていた。
不思議の国に迷い込んだような、そんな魅力のある街なのである。
さて、いよいよそのタリンへの再訪の時だ。
ヘルシンキのフェリーターミナルは、休日であるからかタリンへ遊びに行く客でごった返していた。
チケットを予約しておいて良かった。
タリンへはTallink silia lineタリンクシリアラインのクルーズ船で行くが、これはかなり大型の船で、もの凄く快適である。
ツーリスト| タリンクシリヤラインでの バルト海クルーズへようこそ | - Tallink & Silja Line
車が次々と船に吸い込まれていく。
船内は下層は駐車場になっているが、上層部は個室、カフェ、バー、座席、カジノまである。
3時間超など、あっという間に過ぎてしまう充実ぶりである。
もちろんハンバーガーショップや食事のできるレストランなども入っている。
さて、あっという間にクルーズ終盤。乗客が窓の外を眺め出すと、タリンはもうすぐだ。
窓からでもすぐ分かる旧市街の尖塔。天気もばっちりだ。胸が高鳴る。
シェンゲン協定加盟国であるため、フィンランドとエストニア間で出入国の手続きは無い。
フェリーターミナルは何の変哲もないが、遠くに見える旧市街の尖塔が異世界への目印だ。
お天気のなかのんびり歩いて15分ほど、旧市街の城壁のすぐ外までやってきた!
いくつかある門のうちの一つ。そこに鎮座するこの変わった建物は、通称「太っちょマルガリータ」。
その昔牢獄だった建物で、囚人の食事の用意をするマルガリータというおばさんが太っていたからそう呼ばれるようになったとか。
なんだか建物自体の形も太っちょで、ピッタリの名称だ。
街の中には、こうしたチャーミングな通称を持つものがたくさんあり、それもまたこの街を印象深くしている。
この古びた門をくぐれば、いよいよそこは中世の世界である。
まずお目見えするのが、「スリーシスターズ」。当時の商家である。
屋根裏部分には、当時荷物を上げ下げして部屋に運び入れていたクレーンを掛ける杭がそのまま残っている。
実はここは今五つ星ホテルとして実際使われている。
当時そのままの木の温もりのある内装、蝋燭の火、暖炉の温かさ、それでいて快適な設備、つくづく魅力的である。
ぜひぜひ一度は泊まってみたいプチホテルのうちの一つだ。
http://www.threesistershotel.com/#hotel
シュルッスレホテルもまた絶対に泊まりたいホテルの一つである。
Hotel Tallinn | Schlössle Hotel | Estonia
さて、スリーシスターズから少し歩くと、街で一番高い尖塔をもつ聖オレフ教会がある。
その古めかしい教会の門から中へ入ると、さらに、絵本に出てくるような小さな木の扉がある。
中に入ると急な石段があり、どうやら上まで続いているようだ。
ひんやりした風が吹いてくる。
かなりの数の石段をこなすと、足腰がパンパンになってきた。
ようやく出口の光が見える。
パッと視界が開けると、一瞬明るさで目が眩んだ。
しかし、眼下に広がる風景に、疲労感などどこかへ吹っ飛んでしまった。
えんぴつ型の塔、ロシア時代の玉葱ドーム、赤茶屋根やパステルカラーの建物。
屋根の根本に立ち旧市街を眺めていると、なんだか鳥になったような気分になる。
下りはまた一苦労。
下へ辿りつくと、そこにあった木の椅子で休み、少しの間教会内部を眺めていた。
目立った装飾も無くいたってシンプルな教会は、祭壇についた蝋燭の灯だけが煌々と光っていた。
ロシアのピョートル大帝が視察に来た際あまりに暑かったため、菩提樹を植えて木陰を作らせたという。白壁、群青の空、菩提樹のシルエットが絶妙なコンビネーションだ。
二本の太い通りの間をつなぐ小路に、「幽霊通り」というのがある。
その昔、この通りに住んでいたオランダ人商人が妻を惨殺した事件があり、それ以降この通りには女性の幽霊が出るようになったのだとか。
そういわれれば、なんとなくこの通りだけ薄暗く、惨殺された女性の霊が彷徨っていてもおかしくないような気がしてくる。
ちょっとしたアーチを何気なく潜ってみる。
とびきりオシャレな小窓に出会うことも。
老舗カフェ、Maiasmokkマイアスモックでは濃いめの珈琲と伝統菓子を楽しめる。
さらに、併設されているショップではとても食べ物とは思えないマジパン細工を見ることができる。
これぞまさにお菓子の家である。
思うに、女子ならば誰でもタリンを好きになるだろう。
街の其処ここにさり気無くある店の看板や雨どいがあまりに可愛らしいからである。
旧市庁舎の雨どいは、なんとドラゴン。
雨水がドラゴンの口から流れ出る。
市庁舎の塔のてっぺんにある風見鳥は、よく見てみたら鳥ではなくおじいさん。
ビアハウスの看板はビールの樽。
レストランも一目瞭然。
長靴の雨どいなんかすごく洒落ている。
そんな可愛い看板のうちのひとつ、お目当てのカフェは壺をモチーフにした看板。
中庭からして、もうなんだかワクワクする。
小さな店内にはいると、所狭しといろんなものが並べられたレジがあり、その向かいにとてつもなく可愛らしい空間がある。
これはもう、そのまま絵本の挿絵になりそうだ。まるで、幼いころよく読んだ「ぐりとぐら」に出てきそうだ。
頼んだのはここの名物、セリヤンカという壺に入ったスープ。
これは・・・!!
今までで味わったスープの中で、紛れもなく一番だ。
コックリとした深みとまろやかさのある、トマト風味のスープ。
ミネストローネと似ているが、もっと濃厚で、何かが違う。
セロリや玉葱などの野菜がとにかくゴロゴロ入った具だくさんのスープで、サワークリームとクリームチーズがまろやかさを加えている。
たっぷりとした壺に並々と入っていて300円程度。
それについてくる黒パンがまたこれ、何切れでも食べてしまいそうなほど癖になる味。
ほんの少しの酸味と甘み、絶妙なしっとり感、濃厚なスープに浸したりして食べると、いくらでも胃に納まってしまう。
ランチはこれだけで十分である。
Bogapott - Bogapott - SUMMER IN BOGAPOTT!
帰り際二階のロフトを覗くと、またもや何やら外国の童話に出てきそうな部屋があった。
この時期のエストニアの空気は肌寒い代わりに澄みきっている。
「魔女の宅急便」でキキが下宿していたパン屋の裏庭にそっくりな一角を見つけた。
高台にあるトームペア城付近の展望台からもまた、街の眺望を楽しむことができる。
タリンの街の景観をより絵本チックにしているのは、この鉛筆型の塔ではないだろうか。
まるでおもちゃ箱のような街。
ロシア正教のイコンばかりを売っているマニアックな店などもある。
現存する薬局ではヨーロッパ最古だともいわれる市議会薬局。
残念ながら本日は休みとのこと。
恋に効く薬なんかもあるのだそう。
やはりタリンの街は歩いているだけであちこちに目移りしてしまうくらい楽しい。
カフェもショップも、どれをとっても独特の個性があり、没個性的なチェーン店などどこにも見当たらないのが良い。
そんなカフェの中でも、最もワクワクさせてくれる店がある。
タリンの中では割と有名な店だ。
その店は、小路を抜けた先のまるで何かの劇場のセットにありそうな中庭の一角にある。
少し丸みを帯びたピンクの建物、蔦の絡んだ古い家、ジブリのアニメにでも出てきそうだ。
その中でも一際目立つこの店。
「ショコラテリエ」
Avaleht - Chocolaterie - kohvikud - trühvlid - Josephine - Pierre - Bel-Ami
なんとも形容しがたい独特の空気感を持った異空間。
森の中の魔女の家?それとも赤ずきんのおばあちゃんの家か。
天井からは何やら色んなものがぶら下がり、棚にはドライフラワーや見たことのない植物が置いてある。
アンティーク調の絨毯や調度品、蝋燭が不思議と落ち着く空間を作り出している。
この独特の雰囲気は、行ってみないと分からない。
手作りの生チョコやペストリーが美味しい。
タリンで売っているものは手作りのものが多く、手仕事による温かみの感じられる味わい深い品ばかりだ。
ドミニコ修道院付近。ここは職人たちの工房兼ギャラリーの集まる通りで、小さな工房をひとつひとつ見て歩くと面白い。
ここは仕事で行った際に入ったことのあるカフェで、半地下になっている、穴蔵のような店だ。
タリンの店は極力蛍光灯などの光を使わないようにしているように思う。
多少暗く感じるが、無機質な光にこれでもかと照らされた都会の店には無い、温もりを味わえるのはここならではかもしれない。
夕食に予約してあったのは、一度仕事で行って、そのあまりの異空間に魅せられてしまったレストランOldeHanzaオルデハンザ。
ここはタリンではかなり有名な店であるが、初めてそこに足を踏み入れた時、すっかり自分が中世にタイムスリップしてしまったかのような錯覚に襲われた。
それもそのはず、ここは歴史家の監修のもと15世紀にあった実際の商家の様子を可能なまでに再現しているからだ。
家の中はもとより、メニューの製法に至るまでもできる限り当時を復元している。
したがって、照明はほぼ蝋燭のみである。
重厚な木の入口から仄暗い店内へと足を踏み入れると、そこには完全なる15世紀の商家の世界があった。
タリンは当時、ハンザ同盟によってロシアとの貿易の中継地点として繁栄した一都市であった。
14~15世紀はタリンが最も豊かだった時代であり、そういった裕福な商人たちの家では毎夜晩餐会なんかが開かれていたのであろう。
店内はまさにそんな雰囲気で、北国に良く似合う笛などのエストニア民族楽器が独特の旋律を奏で、活気に満ちた建物の中は、よく中世を舞台にした映画などで村人たちが狩りの前夜に酒を持ち寄って前夜祭をしているような、まさにそんなシーンなのである。
料理というと、これがまた結構いけるのだ。
イノシシやシカ、クマといった当時風のジビエもあるのだが、もちろん普通の牛フィレ肉などもあり、それを頼めば普通に美味しい。
牛フィレステーキとクリームソース、大麦のライス、胚芽のパンなどがついたワンプレート。
こちらはチーズのグラタン。
ハニービールやジンジャーティーなど、女性の好きそうなドリンクが沢山ある。
そして、もし行ったなら見てもらいたいのが、トイレである。
もちろん設備自体は水洗で掃除も行き届いており非常に清潔。
なんだか不思議に居心地の良い空間なのである。
手洗いは、このやかんを傾けて水を出す。
壺に入ったハニービールを飲みながら、ほろ酔い気分で中世の夜に浸る。
なんとも贅沢なひとときである。
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外に出ると、夜20時近いにも関わらず、この明るさ。
タリンで過ごした忘れられない中世の想い出に浸りながら、帰路についた。